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岡山地方裁判所 平成6年(ワ)371号 判決 1997年3月18日

甲事件原告

松本春枝

外八名

乙事件原告

荒木智真

外一〇名

甲、乙事件原告ら訴訟代理人弁護士

鵜野一郎

松田敏明

幸田勝利

甲、乙事件被告

日蓮正宗

右代表者代表役員

阿部日顕

甲、乙事件被告

妙霑寺

右代表者代表役員

横田智研

甲、乙事件被告ら訴訟代理人弁護士

奥津亘

大石和昭

小長井良浩

西村文茂

主文

甲、乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は甲、乙事件原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告畝木良子に対し金三〇〇万円、その余の原告らに対し各金二五〇万円並びに右各金員に対する被告日蓮正宗について平成五年六月五日から、被告妙霑寺について同月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 本案前

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

2 本案

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

(乙事件)

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告らに対し、各金二五〇万円並びに右各金員に対する被告日蓮正宗について平成六年五月二六日から、被告妙霑寺について同月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

(甲事件)

一  請求原因

1 当事者

原告らは、被告妙霑寺(「被告寺院」という)の信徒である。

被告日蓮正宗は、宗祖日蓮立教開宗の本義たる弘安二年の戒壇の本尊を信仰の主体とし、法華経及び宗祖遺文を所依の教典として、宗祖より付法所伝の教義をひろめ、儀式行事を行い、広宣流布のため信者を教化育成し、寺院及び教会を包括し、その他この宗の目的を達成するための業務及び事業を行うことを目的とする宗教法人である。

被告寺院は、日蓮正宗宗制に定める宗祖日蓮所顕十界互具の大曼茶羅を本尊として日蓮正宗の教義をひろめ儀式行事を行い広宣流布の為め信者を教化育成しその他正法興隆、衆生済度の浄業に精進するための業務及び事業を行うことを目的とする宗教法人であり、被告日蓮正宗に包括される被包括宗教法人である。

2 納骨ロッカー

原告らは、それぞれ被告寺院との間において左記のとおり客殿の一画に存する納骨室の納骨ロッカー一基宛について永代使用権設定契約を締結し、対価として五〇万円を支払い、遺骨を納骨した。

契約年月日       遺骨

原告松本 昭和六〇年九月頃

原告畝木 昭和六〇年八月二四日頃 亡父

同    昭和六二年一一月一日頃

原告菊井 昭和六一年三月六日   亡父母

原告立川 昭和六二年三月二九日  亡夫

原告道上 平成元年九月五日

原告原田 平成元年四月一二日

原告赤井 昭和六一年七月三日   亡夫

原告中庭 昭和六〇年九月二一日  亡母

原告片山 昭和六一年九月二四日

3 被告寺院の不法行為責任

① 詐欺

前項の納骨室は他人の委託を受けて焼骨を収蔵する施設であり、墓地、埋葬等に関する法律(以下「墓埋法」という)二条六項の「納骨堂」に該当するから、被告寺院は同法一〇条により岡山県知事(平成六年四月一日からは岡山市長)の許可を受けなければならないものであるが、被告寺院は右許可を得ることなく、しかも、許可要件を欠き、許可を得ることが不可能であるにもかかわらず、納骨堂を経営している。

被告寺院は、原告らに対し、それぞれ納骨室に設置した納骨ロッカーの永代使用権設定契約を勧誘する際、納骨堂の経営として墓埋法一〇条所定の許可を得ることが必要であるのに、許可を得ておらず、また、被告寺院の納骨室が許可要件を欠き、許可を得ることが不可能であることを十分承知していたにもかかわらず、これらの事実を秘し、あたかも許可を受けたかのように装って、原告らを欺罔し、その旨誤信させ、右契約の申込をさせた(原告らは、納骨室が無許可であることを知っていれば契約しなかった)。

② 過失(予備的)

被告寺院のように客殿の建立の際に内部に納骨室を設け、納骨ロッカーを設置し、信者との間で有償の永代使用権設定契約を締結しようとする者は、事実上のみならず法律上も焼骨保管用として使用できる納骨施設を信者に提供できるように、関係法令やその運用実態等を十分調査し、右設置について墓埋法の許可が必要かどうかを確認し、許可が必要である場合にはこれを得た上で、永代使用権設定契約を締結すべき義務を負うものであるところ、被告寺院は、これを怠り、関係法令や運用実態等を十分調査することもなく、許可が必要かどうか確認もせず、所定の許可をとらないまま、漫然と原告らとの間で納骨ロッカー永代使用権設定契約を締結した過失がある。

4 被告日蓮正宗の不法行為責任

被告日蓮正宗は、被告寺院の上部宗教法人として、被告寺院の納骨堂経営に関して建設、経営等に一貫した承認指導監督権限を有し、現実にもこれを行使していたところ、納骨堂の経営には墓埋法一〇条所定の許可を得ることが必要であることを熟知し、被告寺院が納骨堂経営を開始するにあたって右許可を得ているか否か容易に知り得る立場にあったから、被告寺院に対して許可取得を指示し、右取得後に納骨堂の建設及び経営開始について承認を与えるべき義務を負うところ、これを怠り、被告寺院が許可を得ているか否かを確認しないまま、漫然と納骨堂の建設及び経営開始に承認を与え、違法な納骨堂経営を認識しながら放置し是認助長した責任がある。

5 損害

原告らは、被告寺院に対し、それぞれ納骨ロッカー永代使用権設定契約名下に前記2のとおり五〇万円(原告畝木良子のみ二基分一〇〇万円)を支払い、同額相当の損害を被ったほか、それぞれに故人の遺骨を適法な納骨ロッカーに平穏に収蔵して追善回向を行うつもりでいた(現に原告松本、原告畝木、原告菊井、原告立川、原告赤井及び原告中庭は遺骨を収蔵し追善回向を行っていた)のに、違法な納骨ロッカーを使用させられてその宗教的心情を著しく害され、多大な精神的苦痛を受け、慰謝料として少なくとも金二〇〇万円を要する。

6 結論

よって、原告らは、被告ら各自に対し、共同不法行為による損害賠償として、請求の趣旨のとおりの支払を求める。

二  本案前の答弁の理由

被告日蓮正宗は、日蓮正宗の信徒団体である宗教法人創価学会による同宗の伝統法儀に対する重大明白な違背等を理由に、創価学会を破門し、さらに創価学会名誉会長池田大作を信徒除名処分にするなどしたのであるが、これに対して、創価学会は被告日蓮正宗に対する極めて不当な宗門攻撃、嫌がらせなどを繰り返し、創価学会所属員らをして、組織的な指示、支援の下に、被告日蓮正宗及び同宗の寺院を相手に次々と全国的規模で種々の訴訟提起、刑事告発等に及ばせており、本件訴訟もその一環として提起されたもので、動機、目的において明らかに違法であり、特に被告寺院が納骨室について墓埋法一〇条所定の許可を得ようとしているのに、創価学会が組織的に許可の妨害工作をしている一方で、これに呼応してなされたものである。したがって、本件訴えはそれ自体訴権の濫用であり、訴訟上の信義則にも反し、却下は免れないものである。

三  請求原因に対する認否

請求原因1は認める。

請求原因2のうち、原告らが被告寺院から左記のとおり客殿の一画に存する納骨室の納骨ロッカー一基宛の提供を受け、被告寺院に対し五〇万円を支払い、遺骨を納骨したことは認めるが、その余は争う。

提供年月日       遺骨

原告松本 昭和六〇年九月頃

原告畝木 昭和六〇年八月二四日頃 亡父

同    昭和六二年一一月一日頃

原告菊井 昭和六一年三月六日   亡父母

原告立川 昭和六二年三月二九日  亡夫

原告道上 平成元年九月五日

原告原田 平成元年四月一二日

原告赤井 昭和六一年七月三日   亡夫

原告中庭 昭和六〇年九月二一日  亡母

原告片山 昭和六一年九月二四日

請求原因3ないし5は争う。

なお、墓埋法一〇条は「納骨堂の経営」には都道府県知事の許可が必要であるとしているが、広く一般大衆を対象に専ら遺骨を預かり保管する一般的な営業形態とは異なり、寺院が信仰上の教義に基づき当該寺院に所属する檀信徒に限定して宗教上の儀式として行う遺骨の安置、すなわち寺院の宗教活動としての遺骨の安置は右「納骨堂の経営」に該当しないというべきであるから、本来、被告寺院の納骨行為に同法条の適用はないものと解される。仮に適用があるとしても、被告寺院の納骨室について、本訴弁論終結段階では許可は出されていないが、近日中に確実に許可となる見込みである。

また、被告寺院は納骨施設の建設を始めたときに墓埋法一〇条所定の許可を要するとの認識は全くなく、原告らに対して納骨ロッカーを提供する際に、許可の有無やその必要性等については、被告寺院及び原告らともに全く念頭になく、何ら触れられることもなかった。納骨ロッカーの使用関係は、被告寺院と原告らの宗教的関係を前提とする純粋の信仰上の関係であり、許可取得の有無を前提とするような世俗的な契約関係ではなかった。許可の有無は納骨堂の経営主体に対する法的規制の問題に過ぎず、被告寺院と原告らとの関係の有効要件ではない。したがって、許可がないからといって、詐欺や過失の問題が生じるわけのものではない。

(乙事件)

一  請求原因

1 当事者

甲事件の請求原因1と同様

2 納骨ロッカー

原告ら(原告広滝を除く)は、それぞれ被告寺院との間において左記のとおり客殿の一画に存する納骨室の納骨ロッカー一基宛について永代使用権設定契約を締結し、対価として五〇万円を支払い、遺骨を納骨した。

契約年月日       遺骨

原告荒木  昭和六一年八月二三日  亡母

原告三田  昭和六〇年九月二一日

原告村上  昭和六〇年八月一九日  亡母妻

原告藤田  昭和六〇年七月一八日  亡妻

原告蜂須賀 昭和六三年四月一〇日  亡父母、

亡父の先妻

広滝ヨシエ 昭和六一年一月一六日  同女

(ただし、昭和六二年一月九日同女の死亡により、子である原告広滝が相続取得し、亡母の遺骨を納骨した。)

原告福島 昭和六〇年九月二一日

原告石居 昭和六二年一二月三〇日 亡妻

原告森田 平成二年七月一日    亡父母

原告掛屋 昭和六一年三月二三日  亡夫

原告藤原 昭和六二年一二月三一日 亡父母

3 被告寺院の不法行為責任

① 詐欺

甲事件の請求原因3①と同様

② 過失(予備的)

甲事件の請求原因3②と同様

4 被告日蓮正宗の不法行為責任

甲事件の請求原因4と同様

5 損害

原告らは、被告寺院に対し、それぞれ納骨ロッカー永代使用権設定契約名下に前記2のとおり五〇万円を支払い、同額相当の損害を被ったほか、それぞれに故人の遺骨を適法な納骨ロッカーに平穏に収蔵して追善回向を行うつもりでいた(現に原告荒木、原告村上、原告藤田、原告蜂須賀、原告広滝、原告石居、原告森田、原告掛屋及び原告藤原はそれぞれ遺骨を収蔵し追善回向を行っていた)のに、違法な納骨ロッカーを使用させられてその宗教的心情を著しく害され(原告荒木、原告村上、原告蜂須賀、原告広滝、原告石居、原告森田、原告掛屋及び原告藤原はそれぞれ納骨ロッカーから遺骨を引き出し、改葬することを余儀なくされ)、多大な精神的苦痛を受け、慰謝料として少なくとも金二〇〇万円を要する。

6 結論

よって、原告らは、被告ら各自に対し、共同不法行為による損害賠償として、請求の趣旨のとおりの支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1は認める。

請求原因2のうち、原告ら(原告広滝を除く)が被告寺院から左記のとおり客殿の一画に存する納骨室の納骨ロッカー一基宛の提供を受け、被告寺院に対し五〇万円を支払い、遺骨を納骨したことは認めるが、その余は争う。

提供年月日       遺骨

原告荒木  昭和六一年八月二三日  亡母

原告三田  昭和六〇年九月二一日

原告村上  昭和六〇年八月一九日  亡母妻

原告藤田  昭和六〇年七月一八日  亡妻

原告蜂須賀 昭和六三年四月一〇日  亡父母、

亡父の先妻

広滝ヨシエ 昭和六一年一月一六日  同女

原告福島  昭和六〇年九月二一日

原告石居  昭和六二年一二月三〇日 亡妻

原告森田  平成二年七月一日    亡父母

原告掛屋 昭和六一年三月二三日  亡夫

原告藤原  昭和六二年一二月三一日 亡父母

請求原因3ないし5は争う。

甲事件の請求原因に対する認否の後尾二段(なお書き及びまた書き部分)と同様

第三  証拠<省略>

理由

(甲事件)

一  本案前

被告らは、本案前の答弁の理由のとおり、本訴提起が訴権の濫用であるなどと主張するが、確かに、被告日蓮正宗と創価学会との間には深刻な対立、軋轢が存し、紛争が泥沼化し、創価学会或いはその所属員による被告日蓮正宗或いは関連寺院等に対する訴訟提起、告発等が全国的に相次いでいるやにはうかがえるものの、本件訴えは、被告寺院からその納骨室に設置された納骨ロッカーの提供を受けた原告らが被告寺院に対し墓埋法一〇条所定の許可の欠如等を理由に不法行為による損害賠償を求める個別、具体的な法的請求にかかる訴訟であり、現に原告らの主張するとおり右納骨室について許可手続が経由されていなかったなどの事実が認められることなどからすると、仮に訴えの背景として被告ら主張のような事情が存するとしても、未だ多数の同種訴訟における被告ら側の勝訴判決の確定が恒常化するまでには至らない現時点においては、訴えの提起自体について、直ちに訴権の濫用があるとまではいいがたく、他に訴権の濫用等訴えを却下すべき事由を認めるに足りるまでの証拠はない。

二  本案

1  当事者

請求原因1は当事者間に争いがない。

2  納骨ロッカー

請求原因2のうち、原告らが被告寺院から左記のとおり客殿の一画に存する納骨室の納骨ロッカー一基宛の提供を受け、被告寺院に対し五〇万円を支払い、遺骨を納骨したことは、当事者間に争いがない。

提供年月日       遺骨

原告松本 昭和六〇年九月頃

原告畝木 昭和六〇年八月二四日頃 亡父

同    昭和六二年一一月一日頃

原告菊井 昭和六一年三月六日   亡父母

原告立川 昭和六二年三月二九日  亡夫

原告道上 平成元年九月五日

原告原田 平成元年四月一二日

原告赤井 昭和六一年七月三日   亡夫

原告中庭 昭和六〇年九月二一日  亡母

原告片山 昭和六一年九月二四日

3  被告寺院の不法行為責任

① 経緯

甲第一乃至第五九号証(枝番を含む)、乙第二ないし第三一号証(同)、第三三乃至第四三号証(同)、原告松本春枝及び被告寺院代表者の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

被告寺院は昭和三一年八月日蓮正宗の一末寺として同宗の信徒団体である創価学会の発願により岡山市清心町に建立寄進され、昭和三二年一一月法人登記を経由した。被告寺院代表者横田智研は建立当時から住職の地位にある。被告寺院では建立当時から納骨堂を有し、信徒の遺骨を預かり保管していた。

昭和五一年一一月被告寺院は信徒の増加に伴い拡張のため岡山市津高に移転新築した。移転後も本堂の床下に納骨室を設け、信徒の遺骨を預かり、安置していた。

その後、被告寺院に遺骨の安置を求める信徒が増え続け、また墓地に代わる納骨施設の設置を望む声も高まるなどしたことから、昭和五九年一月横田住職は創価学会岡山県本部長清水茂正ら創価学会員で構成される被告寺院の信徒の代表である責任役員会に諮り、その承認を得て、新たな納骨堂及び客殿を新築することになったが、納骨堂を独立した建物として計画していた点については近隣住民が反対したため、客殿と納骨施設(客殿内に納骨室を設け、納骨ロッカーを設置する)とを合併した形の一つの建物に設計変更し、同年七月再度責任役員会に諮ってその承認を得、着工の運びとなった。当時、責任役員会において納骨堂の建築或いは客殿内の納骨施設の設置について墓埋法上の許可の要否如何は、何ら話題にのぼらなかった。

昭和六〇年六月被告寺院では納骨室を有する客殿が完成し、同月一一日に客殿並びに納骨堂落慶入仏法要が盛大に行われ、その際、前記清水は被告寺院の総代として納骨堂の建立が被告寺院及び地元信徒の念願であった旨の経過報告挨拶に立った。

原告らは昭和三〇年から昭和五六年にかけて日蓮正宗に入信し、同時に大半が被告寺院の所属信徒となった。

横田住職は客殿の建設途中の頃から信徒らに対し毎月の御講の際などに新しく建てる客殿の中の納骨室に納骨ロッカーを設置し、納骨すれば一基五〇万円で永代追善回向を奉修するから、希望者は利用してほしい旨の話をするなどしていたところ、その話を直接聞き、或いは伝え聞いて、原告らが申し込んだ。原告らは、いずれも日蓮正宗を信仰していた両親や配偶者等の親族の遺骨を一緒に安置し、毎日お題目を上げ、永代追善回向してもらえることを期待念願して申し込み、被告寺院はこれを約束して申込に応じたものであるが、その際、両者間で墓埋法所定の許可の有無要否等は全く話題にのぼることはなかった。

平成二年夏頃から被告日蓮正宗と創価学会との間で全国的に紛議が頻発し、被告寺院においても寺側と創価学会員との間で種々問題が生じるようになり、被告日蓮正宗が平成三年一一月二八日創価学会に対して破門を通告した件の後、原告らの一部を含む信徒らから被告寺院に対し平成四年九月七日付で「納骨ロッカー返金催告書」と題し「昨年一一月に日顕宗より破門されたから、納骨ロッカーを返す代わりに、支払金を銀行口座に振り込んでほしい」旨記載した内容証明郵便が送付されたが、これに対し、被告寺院は「日顕宗なるものは存在しない。個人を破門したことはない。一方的な解約申し出には応じられない」旨記載した回答書を送付した。

平成四年頃から全国規模において創価学会員による被告日蓮正宗及びその関連寺院に対する納骨施設に関する告発が多発するようになり、同年一二月頃被告寺院はその納骨施設について被告日蓮正宗宗務院から所轄の保健所に相談するようにとの指示を受け、平成五年一月頃横田住職が岡山環境保健所に出向いたところ、同保健所から墓埋法一〇条の納骨堂経営許可の判断資料として納骨施設から半径五〇メートル以内の近隣住民全員の納骨堂設置に関する同意書を添付するよう指示され、同住職は近隣住民の同意書取得に回った。

これに対抗するように、被告寺院の西側に隣接する団地美鈴タウン自治会(自治会長は創価学会岡山北本部の幹部である魚谷憲司)事務局名義の「被告寺院が勝手にロッカー式納骨堂を作り、近隣の人達をだまし、違法のまま営業をしている」などと記載した文書が近隣住宅に配布され、平成五年二月には右魚谷らにより岡山県に対して納骨堂の撤去などを求める申入書が提出され、さらに岡山西警察署に対して被告寺院を墓埋法違反を理由に告発する旨の文書が提出され(墓埋法違反の件については同年一一月三〇日不起訴処分となった)、同年二月六日には右告発等に関する新聞報道がなされた。

右新聞報道により、原告らは被告寺院の納骨室が墓埋法一〇条所定の許可を得ていないことを知り、平成五年五月三一日甲事件を提起した(平成六年四月七日乙事件原告らが乙事件を提起した)。

原告らのうち遺骨を預けていた者はその後それぞれ遺骨を引き出して改葬したが、右改葬までの被告寺院の遺骨の保管状態に特に問題はなかった(もっとも、原告松本春枝本人尋問の結果中には、亡夫の遺骨が納骨ロッカー内に安置されていなかった旨の供述部分があるが、甲第五〇号証、乙第二六号証及び被告寺院代表者本人尋問の結果によれば、原告松本自身が当初亡夫の遺骨を敢えて納骨ロッカーに納めようとせず、殊更一時預かりを希望したために納骨ロッカーに安置されなかったものと認められ、この点に関して被告寺院側に特段の遺漏は認められない)。

その後、被告寺院は墓埋法一〇条所定の岡山県知事(平成八年四月一日中核市の指定を受けた岡山市の市長)の許可を取得すべく当局と協議を重ね、本訴弁論終結段階においてまもなく許可が下りる見込みとなっている。

以上のとおり認められ、右認定事実を左右する証拠はない。

右認定のように、被告寺院は信徒の要望に応える形で信徒代表の責任役員の承認を得て、新築した客殿内に納骨室を設けて納骨ロッカーを設置し、原告らがその使用を申し込んだもので、その過程において墓埋法一〇条所定の許可の要否等が横田住職や責任役員らの間で言及されたり、被告寺院と原告ら信徒との間で話題にのぼったりしたことはなく、右許可の存在が納骨ロッカーの使用の必須の前提要件とするような合意もなかったのであり、原告らの被告らに対する納骨ロッカーに関するクレームの真意は、平成四年九月七日付「納骨ロッカー返金催告書」と題する内容証明郵便の記載内容から明らかなように、創価学会が被告日蓮正宗から破門されたことに存するものということができる上に、納骨ロッカーについては、被告寺院が被告日蓮正宗からの指示により右許可取得のため当局との協議を重ねた結果まもなく許可の見込みの状態にあることが明らかである。

② 詐欺

原告らは、請求原因3①のとおり被告寺院が納骨ロッカーについて墓埋法一〇条所定の許可要件を欠き、許可を得ることが不可能であるのに、これを知りながら、これを秘して、許可を得た施設であるかのように装って、殊更原告らを欺罔した旨主張するが、前記①認定の事実に照らし、採用の限りではなく、他に詐欺の事実を認めるに足りる証拠もない。

③ 過失

また、原告らは請求原因3②のとおり被告寺院が墓埋法一〇条所定の許可を取得しないで原告らから納骨ロッカーの使用申込を受け付けたことをもって過失であるなどと主張するが、次のとおり採用しがたい。

すなわち、墓埋法は、墓地、納骨堂等の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とする行政法規であるから、被告寺院の納骨施設について、被告寺院と原告らとの間における使用に関する合意当時に、偶々同法の許可取得がなされていなかったとしても、直ちに右合意の私法上の効力に影響が及ぶ性質のものではない上に、被告寺院の納骨施設が墓埋法の立法目的に照らして不適切とすべき事情も見当たらない(前記認定事実によれば、一時岡山環境保健所が被告寺院に対し納骨堂経営許可の判断資料として納骨施設から半径五〇メートル以内の近隣住民全員の納骨堂設置に関する同意書を提出するよう指示し、被告寺院が近隣住民の同意書取得に回ったところ、創価学会側の反対運動がなされ、全員の同意書取得に至らなかったことが認められるが、もとより近隣住民全員の同意を右許可の必須の要件であるとする法的根拠はなく、現に本訴弁論終結時点ではまもなく許可の見込みとなっている)ことからすると、実質的にも違法なところはないものというべきであり、また、右許可がない(まもなく許可の見込みである)ことによって原告らが何らかの不利益を直接的に被るものでもなく、さらに、前記認定のように、原告らは日蓮正宗の信徒として、宗旨を同じくする親族の遺骨を被告寺院に安置して永代回向したいとの純粋な宗教的動機に基づいて、それぞれ納骨ロッカーの使用を申し込んだもので、右許可の存在を右申込の主要動機とするような意識を有していなかったのであるから、右申込当時に許可がなかったことを捉えて、被告寺院の原告らに対する義務違反(過失)があったとすることはできない。

他に被告寺院の過失を首肯させるような事実を認めるに足りる証拠もない。

4  被告日蓮正宗の不法行為責任

原告らは請求原因4のとおり主張するが、右は被告寺院の詐欺又は過失の存在を前提とするものであるところ、被告寺院に詐欺又は過失があったといえないことは前記3に説示したとおりであるから、前提を欠き、理由がない。

(乙事件)

一  当事者

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  納骨ロッカー

請求原因2のうち、原告ら(原告広滝を除く)が被告寺院から左記のとおり客殿の一画に存する納骨室の納骨ロッカー一基宛の提供を受け、被告寺院に対し五〇万円を支払い、遺骨を納骨したことは、当事者間に争いがない。

提供年月日       遺骨

原告荒木  昭和六一年八月二三日  亡母

原告三田  昭和六〇年九月二一日

原告村上  昭和六〇年八月一九日  亡母妻

原告藤田  昭和六〇年七月一八日  亡妻

原告蜂須賀 昭和六三年四月一〇日 亡父母、

亡父の先妻

広滝ヨシエ 昭和六一年一月一六日 同女

原告福島  昭和六〇年九月二一日

原告石居  昭和六二年一二月三〇日 亡妻

原告森田  平成二年七月一日    亡父母

原告掛屋  昭和六一年三月二三日  亡夫

原告藤原  昭和六二年一二月三一日 亡父母

三  被告寺院の不法行為責任

甲事件の理由説示二3①ないし③と同様(ただし、「原告松本春枝」とあるのは「甲事件原告松本春枝」と、「平成五年五月三一日甲事件を提起した(平成六年四月七日乙事件原告らが乙事件を提起した)」とあるのは「平成六年四月七日乙事件を提起した(平成五年五月三一日甲事件原告らが甲事件を提起した)」と読み替え、「(もっとも、原告松本春枝本人尋問の結果中には、亡夫の遺骨が納骨ロッカー内に安置されていなかった旨の供述部分があるが、甲第五〇号証、乙第二六号証及び被告寺院代表者本人尋問の結果によれば、原告松本自身が当初亡夫の遺骨を敢えて納骨ロッカーに納めようとせず、殊更一時預かりを希望したために納骨ロッカーに安置されなかったものと認められ、この点に関して被告寺院側に特段の遺漏は認められない)」との部分は削除する。)

四  被告日蓮正宗の不法行為責任

甲事件の理由説示二4と同様

(まとめ)

以上によれば、甲、乙事件原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官矢延正平 裁判官白井俊美 裁判官藤原道子)

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